■目的に応じて異なる種類原価管理(計算)(以下、原価計算)という言葉は医療経営においても定着しつつある用語になっていますが、「原価計算」とはどのような管理手法を示しているのでしょうか。おそらく、病院の病床数・病棟機能・個々人において示す内容は異なっています。そのため、言葉の定義として原価計算についての認識に差異がないように、今回は原価計算の種類について説明いたします。現在、医療経営において原価計算という言葉で表現される管理手法は、以下の種類があります(表1)。部門(病棟)別原価計算、診療科別原価計算、医師別原価計算、手術別原価計算、患者別原価計算、疾病別原価計算の6種類に区分されます。表1種類対象効果範囲インディケーター部門(病棟)別原価計算管理部門人事コスト管理病院機能の管理全部・稼働率・平均単価・平均在院日数・医療区分・人員配置診療科別原価計算医師診療科構成固定費の適正パフォーマンス疾病シェア率全部粗利・医師数・受け持ち患者数・救急件数・救急キャンセル率・手術件数医師別原価計算医師医師ひとりの生産性粗利・受け持ち疾病内容手術別原価計算医師(外科系)オペ室のコスト削減一部患者別原価計算現場医師・看護師等医療の質の追求一部疾病別原価計算現場医師・看護師等医療の質の追求一部一般的に、原価計算は現場に対する指標と表現される事が多いですが、決してそうではありません。これらの種類は、単に細分化するカテゴリーが違うだけでなく、その指標を使用(活用)する対象者・用途が異なります。そのため、目的にあった原価計算の種類を選択していただく必要があります。■原価計算成功の鍵は試算表にあり原価計算は病院においてなかなか定着が難しいとされる管理手法です。これまで弊社が取り組んだ事例においても、軌道にのったケースとなかなか軌道にのっていないケースがあります。軌道にのったケースの共通項はいくつかありますが、一番重要な点は、月次の試算表(決算書)が適正に作成され経営に役立てているかどうかです。法人・病院・各施設の試算表が適正に管理され、毎月の経営の振り返り、目標に向けての改善に活用されている病院であれば、原価計算は非常に有意義なツールとなります。※月次の試算表の重要性については、また次回以降でお伝えいたします。その理由が、先ほど述べたそれぞれの原価計算の使用(活用)用途です。法人・病院・各施設の財務状況が、目標としている財務状況となっているかどうか(予算や中期事業計画の進捗確認)、公のデータと比較をしての財務状況はどうか(ベンチマーク)。それらが高い傾向、または低い傾向であれば何が原因によるものか。このように全体を俯瞰し、問題意識をもった状態で、分析の対象を細分化していくことが非常に効果的です。■組織単位から個人単位へブレイクダウン原価計算に取り組む場合の優先順位として、部門(病棟)別原価計算、診療科別原価計算、医師別原価計算の順に取り組むことが効果的です(表2)。部門(病棟)別原価計算は、主に病棟機能と患者層がミスマッチしていないか、人員配置は適正な状態であるかを把握するため、ハード面(施設基準や法定人員)に関する指標です。診療科別原価計算は、主に医師ひとりあたりの売上や受け持ち患者数、病院としての診療科構成や設備投資の適正について把握するため、運用面に関する指標です。医師別原価計算も、主に医師に対する指標であり、診療科別原価計算よりも運用面に関しての特色が強くなります。※手術別原価計算、患者別原価計算、疾病別原価計算は現場指標の特色が強く、現場の効率化につなげる指標であるため、経営に関する今回のテーマからは一旦除外します。原価計算は、日常作成される財務会計(試算表)や税務会計では表現できない現場の事象を数値化し、可視化する管理会計の一種です。そのため、最終的には現場の行動変容への活用が求められます。しかし、現場レベルで解決できないような課題を現場に求めすぎるのではなく、まずは法人全体、病院・各施設、病棟といった組織レベルで解決すべきことを解決する必要があります。その後、診療科、医師個人というように対象を徐々に絞り込み個人レベルまでブレイクダウンしていくことで、病院に原価計算という管理手法が定着していきます。