■原価計算の「性質としての種類」前回、原価計算の種類を説明しましたが、種類には2パターンあり「対象としての種類」(第2回レポート参照)と「性質としての種類」があります。今回は性質の種類について説明をいたします。病院経営で、原価計算がなかなかうまく経営に活かせていない原因として、この性質としての種類による使い分けが明確にされていないことによるものではないかと考えています。表1性質としての種類は2種類あり、これを当社では実際原価計算と管理原価計算という名称で表現しています(表1参照)。■直課と配賦(按分)による実際原価計算実際原価計算とは、経営のある一時点を人為的に抽出し、その抽出した経営状況が、どの事業・部門の結果によるものかを推測した計算方法です。そのため、一時点を抽出した軸となる数値が必要であり、その軸となる数値を当社では月次試算表を活用しています。軸となる数値は病院全体を表しており、その数値は各事業・部門の集約された数値となる為、数値の計上方法は直課と配賦※1を行い全て計上します。配賦をするため、100%の精度を求める事はできません。失敗する代表例として、この精度にこだわるあまり、数値に振り回され最終的には作成に時間を費やし、活用されないといったケースが少なくありません。当然ながら配賦基準については、できる限り現場が納得できる基準が必要です。配賦基準については第8回以降で説明します。※1直課とは、その数値がどの事業・部門で発生したものかを特定することができるコストを示します。100%の精度が求められない以上、一定の妥協点が実際原価計算には必要です。この妥協点が目的としている使用用途に耐えられる質かどうかが実際原価計算を実施するためには重要です。例えば、実際原価計算を活用して経営に生かすことができる目的は、一定の時期(年間等)での分析による現状の把握、もしくは月次で数値管理を行い、トレンド(傾向値)をみることが考えられます。これらの数値は、傾向値を見るためのものであるため管理には向きません。失敗例の多くが、この配賦を行っている実際原価計算を使って管理を行おうとすることによるものが多いと考えられます。ただ、傾向値とはいえ経営を一時点に区切った数値の積み上げであるため、同じルールのもと数カ月以上数値を見ていくことで、各事業・部門の経営状況は、明確に読み取ることができます。■直課のみで行う管理原価計算一方、管理原価計算は、経営の一部分をピックアップし管理にフォーカスをあてた計算手法です。そのため、コストの計上方法は直課しか行いません。結果、対象となる事業・部門において現場の動きがダイレクトに反映されるため、課題の浮き彫りと改善後の経過測定ができます。ただし、経営の一部分にフォーカスをあてるため、本業の利益である医業利益まで表現せず利益の錯覚をしてしまう可能性があることに注意が必要です(表2参照)。(表2)この点を解消した手法が、標準原価計算(医療機関では固定費の概念)です。管理原価計算を実施するためには、まずは実際原価計算の数値が組織に定着していることが前提として必要であるため、次回以降は基礎となる実際原価計算について中心に説明を致します。