■事例から読むか、仕組みから学ぶかさて、前回までで病院原価管理に関わる仕組みについては説明をさせていただきました。そのため、どのような考え方をしたら良いかと迷った場合は、第 11 回までのレポートを読み返していただければ、参考になる部分があると思います。今回からは、実際に組みあがった原価管理の仕組みをどのように活用しているケースがあるのかをお伝えしていこうと思います。いわゆる事例集のようなものと思ってください。「ふむ!ふむ!なるほど!」と思っていただいた事例があった場合は、「だから、仕組みはこう考えなければいけないのか!」と第 11回までの内容に戻って頂ければ、私がくどくどと第 11 回まで説明していた内容が少しはご理解いただけると思います。「鶏が先か、たまごが先か...」の議論ではないですが、TV ゲームをした世代の方は、ソフトを買ってまず「ソフトを起動してやり始めるタイプ」か「説明書を読んでから起動するタイプ」かによって、第 12 回以降から読むのか、第 1 回から読むのかを選択頂いてもいいかもしれませんね。Case.1 外来の損益と病棟の損益の意味入門といった視点になると思いますが、できあがった原価計算の数値のまずどこを見なければいけないかという視点です。病院全体の数値は試算表(決算書等)で、すでに把握ができていると思いますが、原価計算を実施する根底としてプロフィットセンターの外来(診療科)、入院(病棟、診療科)についてどこが採算をとれているのか、が第一の疑問になると思います。そのため、当然ながらまずは外来部門、入院部門の採算(収益と費用、利益)について確認を行ないます。■外来部門は採算がとれないのか原価計算を実施したことがある方は、この「外来部門は採算がとれないのか」という疑問にぶつかると思います。一般的に赤字だと言われますが、本当に赤字になのでしょうか。この機会に一度一緒に検証していきましょう。【前提】1)基本となる診療報酬(初診料・再診料・外来診療料)2)医療法における人員配置基準(表1)の定義・医師は月額 1,200,000 円に対して、診療日数 20 日、一日あたり労働時間を 8 時間で計算しています。なお、病院の外来の医師については一日の投下時間のうち 60%を外来勤務していると仮定しています。(表1)診療所と病院外来の粗利益比較診療所では、黒字化しているケースが大半であるため、主に診療所との比較をベースに検証を行います。開業医の医師は、利益が生活費に直結しているため、死活問題であることは、この際省きましょう(重要な点ですが・・・)。■病院の方が診療単価は高い診療所と病院外来の粗利益比較(表1)の内容を確認してください。「診療所」と「病院:外来(以下、病院)」において、同じ患者数 40 名の数値で比較してみましょう(病院外来の医療法での定義が 40 名に医師 1 名のため)。まず、目に付く違いは収益です。収益の違いの原因は単価です。これは一日あたりの平均単価を表していますが、診療所と病院との違いは専門的な検査が実施しているかどうか、だということはみなさんもお分かり頂けると思います。そのため、収益は病院の数値が大きくなります。■病院の方が人件費は高騰する傾向一方で、それに伴う人件費についてです(材料に関しては、比較しにくいため今回は一律 10%で検証しています)。人件費の大きな違いは、常勤か非常勤かという部分です。診療所の大半は、非常勤のスタッフで運営を賄うのに比べ、病院は常勤のスタッフ(固定費)が占めていることが多いです。また、病院はアウトソーシング(医事委託等)や、外来診療自体を非常勤医師が対応する診療体制があると思います。そのため人件費に関しては、病院では高騰するケースが多いです。そもそも医師が実施できる撮影や検査といった内容も病院では技師が担当していることが多いため、その分人に対するコストはかかってきますね(その分、平均単価が高いということになります)。■原価計算から見る病院と診療所の機能分化結果として医師一人が一日に 40 名の患者様を診療する場合は、診療所と病院では病院の粗利益が高くなります。ですが実際、診療所ではもっとたくさんの患者様を診療されますし、病院では平均して一日 40 名の患者様を診察されているケースは少ないと思います。そこで実態に即した患者数で(医師一人あたり一日患者数を診療所で 80 名、病院で 20 名)試算をしている数値をご覧ください(病院の患者数 20 名は常勤・非常勤すべて一律で平均しているためです。公私病院連盟では医師一人あたり一日患者数 10 名弱になっていますが、さすがに極端なので、40 名の半分の 20 名としています)。ここでは、先ほどとは逆転して診療所の粗利益が高い結果となっています。数の議論は極端になりますが、押さえていただきたい点は、診療所と病院との違いは収益に占める人件費が大きくなるということです。さらにこの粗利益から下記のようなコストがかかってきます。i)医療機器代(CT、MRI 等)ii)場所代(診察室、受付、待合、検査室等)iii)人件費(医事課、総務課、人事課等)iv)諸経費(水道光熱費、消耗品費等)これらがコストとして計上されると考えると、なかなか厳しい結果になりそうですね。そのような状況のため、病院の外来部門では赤字傾向が強くなるという結果は適正かもしれません。ただし、これはすごく偏った考え方になりますので、実際の業務に携わるときは、この考えを軸に、それぞれの病院でどこの数値が高いのか、また低いのかを考えながら、結果としての損益を確認して頂きたいと思います。例えば、下記に病院における外来患者の構成割合と収益割合を比較した資料があります(表 2)。単価の区分は下記の通りです。1,500 円以下:再診料(720 円)+院外処方 or 外来管理加算(520 円)5,000 円以下:再診+院外処方+生化学検査 or レントゲン撮影等5,001 円以上:再診+4,210 円以上の診療行為(表 2)外来患者の構成割合と収益割合ここで表したいことは、病院の外来といえども全てが専門の高い診療をしなければいけない患者様ばかりでないということです。結論からお伝えすると平均単価 5,000 円以下の患者様に関しては、地域の開業医の先生によるフォローの方が、待ち時間も少なく、より密接な診察が受けられるケースが多くなると考えることができると思います(逆紹介の充実)。一方で、平均単価 5,001 円以上の患者様に関しては、病院で専門性の高い検査を受けて頂く必要があるため、この層を積極的に病院では診察頂くことが必要になると思われます(紹介の充実)。このような状況も鑑みて、結果として損益がどうなっているかを確認する必要があると思います。単なる効率化ばかりではないですが・・・。