Case.2 空床による逸失利益と空床は 0 円ではなく赤字前回お伝えしたように、今回は「病棟の空床による逸失利益と空床が赤字であること」について、お話をします。病院はどうしても、建物や医療機器といった設備投資が先行して必要になります。そのような事業を「資本集約型」の事業といいます。また、さらに病院は、人がいなければ成り立たない事業です。そのような事業を「労働集約型」の事業といいます。共通点は、いずれの事業形態も固定費が高い事業となります。病院経営は、開業以来常にこの課題に対応することになります。(表 2)は前回 Case1(補足)で使用した数値を用いた 1 病棟にかかるコストです。これらのコストは、病棟が稼動しようがしまいが、常に発生するコスト(それを固定費といいます)です。そのため、最大で一日 55 名の入院患者様に対応できる体制が整っている状態ですが、実際に 55 名の入院患者様が利用して頂けるかは話が別になります。■稼働しなくてもコストはかかる(表 3)をご覧ください。これらは、1)実際に許可されている病床数に対する 1 床あたりのコストと、2)稼動した病床に対する 1 床あたりのコストを比較しています。1)に関しては、1 床あたりのコストが 26,194 円となっています。2)に関しては、55 名分診ることができる体制のコストが稼動している病床数に負荷されるため、32,743 円と許可病床の 1 床あたりコストに比べて 6,549 円高くなっています。言い換えますと6,549 円分だけサービス料を高める必要があるということです(コストがかかった分上乗せが商売の基本です)。ただ、実際にはなかなかこのような感覚は現場にはなく、肌感覚で「稼働率●%以上は現場が疲弊するのでマンパワーが足りない!」というような話がでてきます。現場でこのような表現を用いつつ、常に低い稼動での人員体制に慣れてしまったらなかなか病床稼動を増やすことには反発が起きますので注意が必要です。最大稼動状況と平均稼働状況を考慮して、人員配置をすることが何より大切であるということですね。■本来得られた収益(利益)はどれほどかまた、空床に関しては別の角度からも注意すべき点があります。本来稼動させることができたはずの病床なので、そこを利用しなかったことによる逸失収益(利益)の問題です。(表 4)は、Case.1(補足)で使用した平均単価 45,000 円を一ヶ月間稼動させて場合の数値です。一ヶ月間稼動した場合、得られる収益は 75,240,000 円となります。一方で、稼動が 80%であった場合は、60,192,000 円となり、稼動しなかった病床分▲15,048,000 円が逸失収益となります(逸失利益は材料比率 20%を控除した 12,038,400 円となります。固定費は収益が増えても減っても関係ないためです)。(表 5)は、各病棟別に実質収益と逸失収益をポートフォリオで表したものです。視覚的に表現することが効果的です(横軸が延患者数、縦軸が平均単価、バブルの大きさが収益を表している)。病床に関する考え方は、空床に関してコストの面で 0 円ではなく赤字だという視点、売上の面で失っている収益、利益がある視点の双方を取り入れつつ、現場でコントロールして頂く重要性を指し示すことが必要です。今回はこのあたりで終了とし、次回診療科別の数値の見方に進めていきます。