Case.3 診療科別損益計算書の見方■診療科別原価計算は医師に対するアプローチが必須前回が病棟別原価計算に関するアプローチを題材にしましたので、今回は診療科別を題材にした内容でまとめていきたいと思います。切り口を診療科で区分するということは、医師に対するアプローチは免れません。病院長として、各診療科がどの程度の稼動をしているか(業績に貢献しているか)を把握するために活用できるのが診療科別原価計算です。■診療科別原価計算の見るべきポイント診療科別であるからといって特段大きく見方を変える必要はありません。その中でも見るべきポイントは診療科合計として、どのような損益になっているかです(表 1)。以下の点に注意しながら見てください。i)診療科合計の最終利益ii)診療科合計の収益(医師一人当収益)iii)入院部門の最終利益iv)医師一人当受け持ち患者数(入院)v)外来部門の最終利益vi)医師一人当受け持ち患者数(外来)i)~vi)は最低限確認するポイントです。それらの数値から以下のような考察を行います。・医師の働き方に偏りがないか(自身の給料は稼げているか。医師一人当収益 12,000 千円以上か)。・入院、外来への投下時間のバランスはどうか(診療科として利益がでているか)。・患者数の増減の原因はなにか(過年度からの変化の理由は)。・医療設備(高額医療機器)の償還はできているか(固定費は回収できているか)。出てきた数値は、日々の現場での医療行為の結果です。利益を追求するあまり原価計算のルール(仕組み)の追求や患者様目線の医療がなされないことは求められていません。あくまで、現場で医療従事者として適正と考えられる医療・サービスを実施し、患者様から喜んで頂けているのであれば、結果として数値が付いてくるはずです。結果が思ったようになっていない場合(利益が出ていない場合等)は、提供しているサービスが適正であるか、患者様に満足して頂けていないか、評価されにくい診療・サービスになっていないかですので、是正する必要があります(ただし、利益が出にくい診療科があることは重々承知してください)。■結果に対する評価次に結果に対しては評価が必要です。診療科別で集計する意義は、それぞれの診療科に対して評価ができることです(言い換えると特定の医師に関して評価するものではないです)。そのため、処遇の改善に活用するか、職場環境に活用するかは別途協議が必要です。赤字病院であっても、きちんと業績結果を出している診療科に対しては評価を、また黒字病院であっても、業績結果が芳しくない診療科には目標達成の習慣を身につけて頂く必要があります。(表 2)のように、診療の大きな流れの中で、どのプロセスで採算が取れていないのか(非効率なのか)を明確にし、改善策を検討し、実施した後どのような数値の変化があるのかを検証することが何よりも大事です。また、これまでのように損益(PL)だけに注力せず、貢献度(BS)の視点を追加することで、医師が実施していきたい医療に近づけるよう寄り添うことができると思います(表 3-1、3-2)。職場環境で各診療科の医師が気にされるのは、新しい医療機器(高額医療機器)の取得です。そのため、単年度の利益だけで判断せず過去の貢献度も加味し、なおかつ、償還計画を含めると十分検討できる事象となります(当然、病院全体の利益も重要ですが、各医師への還元も十分考慮が必要です)。ただし、前述しているように利益がでやすい診療科とそうでない診療科があるため、設備投資への還元は利益の額で制限を設けるのではなく、優先度に順位をつけるような取り組みがよいかもしれません。追伸これらが意味を成すのは、定床(=予算や計画)といった概念がしっかりしているがゆえです。予算、計画が数値の遊びになっていると理論破綻しますので、気をつけてください。